こんにちは。
福岡市南区西長住、
マルキョウ桧原店前にある
「西長住まつなが歯科」院長の松永紘明です。
歯ぐきが少ない部分に対して行われる**遊離歯肉移植術(Free Gingival Graft:FGG)**は、歯周病治療やインプラント治療で広く行われている歯周形成外科のひとつです。
患者さんからは
「歯ぐきを移植する治療ですよね?」
と聞かれることが多いのですが、実は歯科医師が最も気を使うのは移植そのものではありません。
それは、
「移植した歯ぐきをいかに動かさず、しっかり固定するか」
ということです。
今回は、2025年に報告された新しい術式をもとに、遊離歯肉移植術における「固定」の重要性についてご紹介します。
歯ぐきは「貼るだけ」では生着しません
遊離歯肉移植術では、上あごから歯ぐきを採取し、角化歯肉が不足している部分へ移植します。
しかし、移植した歯ぐきは最初から血液が流れているわけではありません。
移植直後は、移植床から栄養を受け取りながら徐々に血管が再生し、生着していきます。
この期間に移植片が動いてしまうと、
- 血液がたまる(血腫)
- 移植片が浮き上がる
- 血流がうまく再開しない
- 壊死や大きな収縮につながる
可能性があります。
つまり、「どれだけ動かさないか」が移植成功の重要なポイントなのです。

特に難しいのは下あごの奥歯
論文では、特に
- 下顎臼歯部
- 前庭が浅い症例
- 筋肉の付着が強い部位
では、移植片の固定が難しいと説明されています。
こうした部位では、頬や口唇の筋肉が動くたびに移植した歯ぐきが引っ張られ、せっかく移植しても安定しないことがあります。
また、筋肉を十分に剥離すると、今度は縫合するための安定した組織が少なくなり、固定自体が難しくなるというジレンマもあります。
これまでは「縫合」で固定してきました
これまで遊離歯肉移植術では、
- 縫合糸で移植片を固定する
- 骨膜へ縫合する
- 歯を利用した懸垂縫合
など、さまざまな方法が工夫されてきました。
もちろん現在でも標準的な方法ですが、症例によっては十分な固定が難しい場合があります。
2025年に報告された新しい固定方法
今回紹介する論文では、
GBR(骨造成)で使用されるチタンピンを、遊離歯肉移植術の固定に応用する
という新しいアイデアが報告されました。
チタンピンを用いることで、
移植片を骨膜へしっかり密着させ、
- 移植片の動揺を減らす
- 血流の再開を助ける
- 移植片の収縮を少なくする
- 手術時間を短縮できる可能性
があると考えられています。
論文では、筋肉の牽引が強い部位や縫合だけでは固定が難しい症例に対してこの方法を用い、良好な治癒経過が報告されています。

新しい術式にも課題はあります
一方で、この方法にも注意点があります。
論文では、
- チタンピンのコストがかかる
- 約10日後にピンを除去する必要がある
- 骨が非常に柔らかい場合は使用しにくい
- ピンを多く使いすぎると血流へ影響する可能性
なども述べられています。
新しい方法だからといって、すべての症例に適しているわけではありません。
患者さん一人ひとりの状態に応じて術式を選択することが重要です。
まだ「有望な新しい方法」の段階です
今回の報告は、3症例をまとめたテクニックレポートです。
良好な結果が示されていますが、現時点では「従来法より優れている」と結論づけられる段階ではありません。
著者らも、今後はランダム化比較試験(RCT)などによる検証が必要であると述べています。
しかし、遊離歯肉移植術において「固定」に着目し、新しい発想で課題を解決しようとした点は非常に興味深く、今後の発展が期待される技術のひとつと言えるでしょう。
まとめ
遊離歯肉移植術では、「歯ぐきを採ること」だけが重要なのではありません。
移植した歯ぐきをしっかり固定し、安定した状態で治癒させることが成功の鍵となります。
今回紹介したチタンピンによる固定法は、従来の縫合だけでは難しかった症例に対する新しい選択肢として報告された術式です。
今後さらにエビデンスが蓄積されれば、歯周形成外科の新たな選択肢の一つになる可能性があります。
当院では、患者さんのお口の状態や治療の目的に合わせて、一人ひとりに適した歯周形成外科をご提案しています。
歯ぐきの不足やインプラント周囲の違和感などでお困りの方は、お気軽にご相談ください。
参考文献
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