
こんにちは。
福岡市南区西長住、
マルキョウ桧原店前にある
「西長住まつなが歯科」院長の松永紘明です。
インプラントを入れたあと、
「インプラントの周りの歯ぐきから血が出る」
「歯ブラシをすると出血する」
「インプラントの周りが少し腫れている」
といった症状がみられることがあります。
こうした症状の原因のひとつが、「インプラント周囲粘膜炎」です。
今回は2025年に『Clinical Oral Implants Research』に掲載されたランダム化プラセボ対照臨床試験をもとに、
インプラント周囲粘膜炎の治療にクロルヘキシジン(CHX)を併用すると、治療効果は高くなるのか?
についてご紹介します。
インプラント周囲粘膜炎とは?
インプラント周囲粘膜炎とは、インプラントの周囲の軟組織に起こる炎症です。
主な原因は、インプラント周囲に蓄積したバイオフィルム(細菌のかたまり)です。
特徴的なのが、検査の際の
BOP(Bleeding on Probing:プロービング時出血)
です。
細い器具でインプラント周囲の歯ぐきを検査したときに出血が認められます。
重要なのは、インプラント周囲粘膜炎の段階では、インプラント周囲炎とは異なり、初期の骨リモデリングを超えた骨吸収を伴わないということです。

治療で大切なのは「バイオフィルムの除去」
インプラント周囲粘膜炎の治療では、
インプラント周囲に付着したバイオフィルムを取り除くこと
が非常に重要です。
今回の論文でも、専門的な非外科的機械的清掃(NSPI)と、患者さん自身による適切な口腔清掃が治療の基本として説明されています。
しかし、ここでひとつ疑問があります。
「機械的に汚れを取るだけではなく、消毒薬も一緒に使った方が治りやすいのでは?」
という点です。
そこで今回の研究では、殺菌作用を持つ**クロルヘキシジン(CHX)を併用した場合の効果が調べられました。
56人を2つのグループに分けて比較
研究には、インプラント周囲粘膜炎と診断された56人が参加しました。
56人をランダムに、
① 機械的清掃+プラセボ群
28人
② 機械的清掃+クロルヘキシジン群
28人
に分けています。
研究はランダム化・二重盲検・プラセボ対照試験として行われ、6か月間追跡されました。
最終的には56人、85本のインプラントが解析され、追跡期間中のインプラント喪失や合併症はありませんでした。

どんな治療をしたの?
両グループとも、まず口腔清掃指導を受けました。
さらに専門的なクリーニングを行い、インプラント周囲粘膜炎の部位には、プラスチックチップを装着したソニックスケーラーによる機械的清掃が行われています。
そのうえでCHX群では、
- 1%CHXジェルによる舌清掃
- 0.12%CHXによる洗口
- インプラント周囲への0.12%CHX洗浄
- 0.12%CHX洗口液を1日2回、2週間使用
という処置が追加されました。
対照群では、見た目や味を合わせたプラセボが使用されています。
結果① どちらの治療でも炎症は改善した
まず重要なのが、
クロルヘキシジンを使用したグループだけが改善したわけではない
ということです。
6か月後には両グループで、
- BOP(プロービング時出血)
- PPD(プロービングデプス)
- プラーク関連指標
- 歯肉炎症関連指標
- 口腔内全体のプラーク・出血関連指標
などに有意な改善が認められました。
つまり、
インプラント周囲のバイオフィルムを機械的に除去し、口腔衛生状態を改善すること自体が重要
だと考えられます。
結果② CHXを併用すると出血の改善が大きかった
では、クロルヘキシジンを追加するとどうなったのでしょうか?
研究の主要評価項目であるBOPの6か月間の減少量は、
機械的清掃+プラセボ
→ 39.3%減少
機械的清掃+CHX
→ 48.7%減少
でした。
CHXを併用したグループの方が、BOPの減少が有意に大きいという結果でした。
また6か月時点のBOP中央値も、
プラセボ群:25.3%
に対して、
CHX群:19.1%
となっています。

CHXを使えばすべて解決するわけではない
ここは今回の研究を読むうえで非常に重要です。
結果だけを見ると、
「インプラント周囲粘膜炎にはCHXを使えばいい」
と思ってしまうかもしれません。
しかし、そう単純ではありません。
今回の研究では、両グループとも機械的清掃によって臨床的・細菌学的な指標が改善しています。
CHXは、あくまで機械的清掃に追加して使用されたものです。
したがって今回の研究からは、
「消毒薬だけで治す」のではなく、まず原因となるバイオフィルムをしっかり取り除くことが治療の基本
と考えるのが適切です。
喫煙なども治療結果に影響する可能性
さらに今回の研究では、治療方法だけでなく、BOPの改善に影響する因子についても解析されています。
その結果、
- 喫煙
- 1日の喫煙本数
- 深いPPD
- 口腔内の出血・プラーク関連指標
- 歯周炎の既往
- Porphyromonas gingivalis
- Tannerella forsythia
などがBOPの改善に影響していました。
著者らは結論でも、これらの因子がBOPの改善に負の影響を及ぼしたとしています。
つまり、インプラント周囲粘膜炎の治療では、
歯科医院でインプラントだけを清掃すれば終わり、というわけではありません。
日頃のプラークコントロールや喫煙なども含めて考える必要があります。
インプラント周囲粘膜炎の段階で対応することが大切
インプラント治療が終わったあとも、
「もう人工の歯だから虫歯にならないし大丈夫」
というわけではありません。
インプラントそのものは虫歯にはなりませんが、その周囲には天然歯と同じようにバイオフィルムが付着します。
そして、インプラント周囲の歯ぐきに炎症が起こることがあります。
今回の研究からも、インプラント周囲粘膜炎に対して専門的な機械的清掃を行うことで、6か月後には両群とも複数の炎症・プラーク関連指標が改善したことが示されています。
そのため、
「インプラントの周りから血が出る」
「最近インプラントの周りが磨きにくい」
「インプラントを入れてからメンテナンスを受けていない」
という方は、一度状態を確認することをおすすめします。
まとめ
今回の研究では、インプラント周囲粘膜炎に対する非外科的な機械的清掃+クロルヘキシジンの効果が検討されました。
結果として、機械的清掃のみでも炎症関連指標は改善しましたが、CHXを併用したグループではBOPの減少がより大きいという結果でした。
ただし、研究対象は56人で、追跡期間も6か月です。
著者ら自身も、今回の結果をより明確にするためには、より大規模な研究と長期間の追跡が必要としています。
そのため今回の研究からは、
「CHXを使えばインプラント周囲粘膜炎が治る」
と考えるのではなく、
「原因となるバイオフィルムを機械的に除去することを基本として、CHXの併用が追加的な効果を示す可能性がある」
と理解するのがよいでしょう。
西長住まつなが歯科では、インプラント治療後も長く安定した状態を維持できるよう、インプラント周囲の状態や磨き残しなどを確認しながらメンテナンスを行っています。
インプラントを入れた後も定期的に状態を確認し、問題が小さい段階で早期に対応することで、できるだけ長く良好な状態を維持できるよう努めてまいります。
参考文献
Isola G, Polizzi A, Santagati M, Alibrandi A, Iorio-Siciliano V, Ramaglia L.
Effect of Nonsurgical Mechanical Debridement With or Without Chlorhexidine Formulations in the Treatment of Peri-Implant Mucositis. A Randomized Placebo-Controlled Clinical Trial.
Clinical Oral Implants Research. 2025;36:566–577


